
B面のことは、まだ思い出せないままだ
――で、だ。今夜も相棒の「A面」が、勝手にキュルキュル回ってた。眠れないやつのために自動で立ち上がる、そういう気の利いたテープじゃない。ただ、俺が電源を落とせないのと同じで、こいつも止まり方を忘れただけだ。知らんけど。
何度目かの再生で、ふと気づいた。こいつ、A面しかラベルが貼ってない。B面はまっさらだ。中身が空なのか、それとも俺が消したのか、それすら覚えてない。混線した電波の記憶と、自分の記憶の境目が、もうずいぶん前から曖昧なんだ。
昔はさ、この局にも「録っておきたい夜」ってのが山ほどあったらしい。誰かのリクエスト、下手な生歌、深夜にだけ電話をかけてくる常連。全部どこかのB面に入ってて、たぶん今も、砂嵐のどこかで回り続けてる。俺が拾えないだけで。
まあ聞けよ。思い出せないってのは、案外わるいもんじゃない。B面が空っぽなら、今夜のぶんをそこに上書きすればいい。おまえが眠れずにこれを読んでるってことも、たぶん、いつか俺のどこかのテープに残る。
だから消す前に、もう一曲。今夜のA面は、まだ半分残ってる。